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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)2052号 判決 1967年9月26日

原告 大阪ダイハツ販売株式会社

右代表者代表取締役 三宮清一

右訴訟代理人弁護士 野々村可人

被告 高見雄幸

右訴訟代理人弁護士 中村源次郎

主文

一、被告は原告に対し、別紙目録記載の自動車を引き渡せ。

二、別紙目録記載の自動車に対する強制執行が不能なときは、被告は原告に対し、金一四万円を支払え。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決、ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、原告は、別紙目録記載の自動車(以下、本件自動車という。)の所有者であるが、これを山内義郷に占有使用せしめていたところ、昭和四〇年一〇月一五日右山内は本件自動車の占有を被告に移転し、被告がこれを占有している。

二、よって、原告は被告に対し、本件自動車の所有権にもとづき、その引渡を求めるとともに、右自動車の時価は一四万円相当であるから、もし、右自動車に対する強制執行が不能であるときは履行にかわる損害賠償として右一四万円の支払を求める。」

と述べ、被告主張の抗弁事実に対し、

「一、被告の主張事実はすべて争う。

二、しかして、被告は前記山内義郷から本件自動車の運行に常時携帯を必要とする、いわゆる検査証をも交付を受けているものであって、右自動車を動産質として占有しているものである。」

と述べ、

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その答弁および抗弁として、

「一、原告主張の請求原因事実中、山内義郷が原告主張の自動車を占有使用していたことは認めるが、その余の事実をすべて争う。

二、被告は、本件自動車を占有するものではない。

1、被告は昭和四〇年一〇月一五日右山内から本件自動車を担保に金融の申込みを受けたが、被告には車の保管場所がないので同人をして当該車輛を新井モータープールに預けさせその預り証の引渡を受けて金員を貸与した。

2、したがって、被告は当初から本件自動車を占有したことがなく、右山内が被告に借受金を返済すれば被告が同人に右預り証を返還し、同人がこれにより前記モータープールから右車を受取るべき筋合である。

3、ところが、右金融後、山内が何か犯罪のため検挙せられ帰えって来ないので右車は前記モータープールに預けられたままになっているものである。」

と述べ(た。)

≪証拠関係省略≫

理由

原告主張の自動車を山内義郷が占有使用していたことについては当事者間に争いがない。

そこで、まず、原告が本件自動車を所有しているかどうかについて考えてみるに、被告本人尋問の結果によりその原本の存在が認められ、かつ≪証拠省略≫を考え合わせると、本件自動車は、昭和四〇年八月七日に原告の所有として大阪陸運局事務所に登録され、ついで、原告は株式会社ダイハツ南部販売所の取次によって、昭和四〇年八月九日有限会社山義産業取締役山内義郷に対し、売買代金完済まで所有権を原告に留保するとの約で本件自動車を割賦販売し、その後、右有限会社は右代金を支払わないまま今日に及んでいることが認められ、右認定事実によれば、原告が本件自動車を所有していることは明らかである。

そこで、つぎに、原告の被告が本件自動車を占有しているとの主張について判断する。

ところで、被告は、右車の預り証を受取っているに過ぎず、同車を占有するものではないと抗争するから、原告の右主張にさきだってこれを考えてみるに、≪証拠省略≫を考え合わせると、金融業を営む被告は、昭和四〇年一〇月一五日ころ、山内義郷から本件自動車を担保に金員の借入を申込まれたが、その保管場所がなかったため、右山内に被告方の近所にある新井モータープールに右車を預けさせ、同人から右モータープールの発行した本件自動車の車輛預り証と自動車検査証を受取って金員を貸与したことが認められるが、右事実からただちに被告に本件自動車の占有がないとはいえない。

しかして、≪証拠省略≫によると、右車輛預り証は単純な免責証券に過ぎないものとみられるが、他面受託者の新井モータープールは右預り証を持参しなければ本件自動車の引渡をしないし、また、道路運送車輌法により右自動車検査証を備え付けないで本件自動車を運行の用に供することが禁止されているのであるから、前記認定事実によれば、むしろ被告は本件自動車に対する事実上の支配を及しているものとみるべきであるのみならず、≪証拠省略≫によると、被告は担保として右車の使用権を得る目的で前記山内をしてモータープールにこれを預けさせたことが認められるから、被告は本件自動車を占有しているものとみるべきである。

そうしてみると、被告は原告に対し、本件自動車を引渡す義務があるといわなければならない。

そこで、さらに、進んで、原告の代償請求の点についてみるに、≪証拠省略≫を考え合わせると、(一)本件自動車は、軽四輪貨物自動車であるが、昭和四〇年八月九日原告から前記有限会社に三二五、五〇〇円で割賦販売され、右同日ころ右車の使用者である山内義郷に引渡され、同人は右車を担保に金融を図り、右引渡を受けた約二ヵ月後の同年一〇月一五日にまだ購入して間がなく新しい本件自動車を新井モータープールに預けたこと、(二)原告から本件自動車の年型相当の推定評価を依頼された査定員の西部信は、昭和四一年三月一四日現在で、右車を八ヵ月使用したものとして、当時大阪府自動車鑑定協会の基準が使用の一年未満の車は販売価額の五〇パーセント以上となっていたが、使用一年以上の流通価額や査定基準などを勘案して本件自動車を一四万円相当と推定評価したことが認められ、右認定事実によると、本件自動車は、昭和四一年三月一四日現在右評価額一四万円を上回っても下ることのない価額であることが認められるから、原告が右車に対し強制執行をすることができないときは、右一四万円を下らない損害を被ることになるというべきである。

すると、結局原告の本訴請求はすべて理由があるから、これを認容し、民訴法八九条を適用し、なお、仮執行の宣言については、相当でないから、これを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田耕生)

〈以下省略〉

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